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少し、意味がちがうんだ。

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もしクラウドが患者さんだったら

歯医者さんの待合室にて降って来たネタ。

ギャグ…かな?微妙な話なのでここで公開。
長い上にくだらないです(笑)
よろしければ続きから。



その違和感に気付いたのは、一週間ほど前のことだ。
違和感はやがて鈍い痛みに変わり、痛みは日を重ねるごとにクラウドの眉間の皺を深くした。
「クラウド、どうかした?」
ティファに問われて、クラウドは無意識に自分の頬をさすっていたことに気付いた。
地図を広げたテーブルを挟んで、紅茶のカップを手にしたティファが小首を傾げている。
「うん……歯が痛い」
「歯!?」
ティファは驚いて席を立つ。テーブルを回りクラウドの隣に座ると、見せて、と心配そうな顔を近づけてくるからクラウドはたじろいだ。
痛むのは一番奥の歯である。ティファの前で大口を開けるのはなんとなく抵抗があった。クラウドのそんな乙女のような心情を察してか、ティファは彼の頬を両手でそっと包むと優しく言った。
「ね、クラウド、あーんして?」
「…………」
俺は子供か?と頭の片隅で拗ねながら、しかし甘い誘いのような、健気なお願いのような、それでいて有無を言わせぬようなティファの「あーんして?」に抗う術などクラウドは知らない。
おとなしく口を開け、ティファの整った眉がわずかにひそめられるのを至近距離で見つめる。
「……親知らずだわ」
「やっぱりそうか」
クラウドの下顎の一番奥、ほとんどは大人になってから生えてくる親知らずと呼ばれる歯が、変な方向に顔を出し始めて隣の歯の神経に触っていた。こういう場合は通常親知らずを抜かねばならない、とティファが言う。
「抜かなきゃだめか……」
「放っておくともっと痛くなるわよ」
クラウドは翌日、生まれて初めて歯医者へ行くこととなった。
 
***

赤ん坊のよだれかけのような布を首元にあてがわれ、クラウドは診察椅子の上で緊張していた。子供の頃から歯が丈夫だった彼には初めての体験なのだから無理もない。そんな様子が目を引くのだろうか、先ほどから広い診療室内を行き来している数人の女性歯科衛生士たちがちらちらと視線を寄越すので、クラウドはますます落ち着かない気持ちになった。
しばらく待っていると、年配の男性歯科医がやってきた。
「えーと、右の奥歯ね。はい、じゃあ見せて」
椅子の背もたれがゆっくりとした速度で倒れていき身体が仰向けになる。点灯した頭上のライトが眩しい。右側から医師、左側から歯科衛生士に見下ろされる格好になると、こういうのをまな板の上の鯉の心境というのかな、などと考えた。
その時ふと目が合った衛生士が、ハッと息を飲むような、妙なリアクションをした。何かまずいことでもあるのだろうかと、また不安になる。
「あいてくださーい」
(……なにを?あ、口か)
勝手がわからないのでいちいち戸惑ってしまう。
それにしても、ティファならともかく他人に口の中を覗き込まれるのはあまり気分の良いものじゃない。
う~ん、と歯科医が唸った。
「これは痛いだろうね。すぐ抜こう。良いかな?」
クラウドは頷いた。ティファの予測どおりだ。
ふと、妙な視線を感じてクラウドは医師の反対側に立つ衛生士に目を向けた。
若い――20歳ぐらいのその女性は、なにやらぼんやり突っ立ってクラウドを見下ろしていた。
「君!何してるの。抜歯の準備して!」
「あ、は、はい!」
歯科医の苛立った声にハッと我に返ると、衛生士はバタバタとその場を離れていった。傍目にもはっきり判るほど顔が真っ赤だった。顔といっても半分はマスクで隠れているので、確認できたのは目元と耳なのだが。もしかして熱でもあるんだろうか、とクラウドは更に不安をつのらせた。初めての経験でただでさえ不安なのに、熱でボーっとした人間の世話にはなりたくない。別の衛生士に替えてくれないだろうか。
そんなクラウドの不安は不幸にも的中した。
頑丈な根を張った親知らずの抜歯は、医師、患者共に大変な作業だった。ペンチのようなものを使って、医師が渾身の力で親知らずを引っ張る。ぐいぐい引っ張る。汗だくになって引っ張る。麻酔のおかげでほぼ痛みはないが、その恐ろしい力に耐える不快感たるもの言外に尽きた。ようやく抜けた頃にはすっかりアゴが痛くなっていたし、虚脱感で目はかすみ、頭がぼうっとしていた。
そんな満身創痍のクラウドに追い討ちを掛けたのがその歯科衛生士だ。
「……ッ!」
「あ、ご、ごめんなさいっ!」
衛生士がクラウドの顔に何かの器具をぶつけた。
「うわっ!」
「すすすすみませんっ!!」
口内洗浄用の水を噴き出す器具を口の中に差し込む前にスイッチを入れてしまい、クラウドの顔を水浸しにした。
「君、熱でもあるんじゃないか!?誰かと交替して!」
呆れた医師のその言葉にクラウドは心底ホッとした。
だが。
「きゃあああすみません!!!」
「…………。」
代わりにやってきたこれまた若い女性衛生士も、どう見ても通常より顔が赤いうえに何かにつまづいて患者が口をゆすぐためのコップを倒しクラウドの服に水をぶちまけたのだった。
ここの衛生士はこぞって風邪でもひいてるのだろうか。頼むから熱のない衛生士を呼んでくれ。
クラウドは今すぐ帰りたいと心底思った。
 
***
 
 
「痛む?」
「少し……」
処方された痛み止めは飲んだが、未だに残る不快感と鈍痛で頭が少し重かった。
何もする気になれないクラウドは、セブンスヘブンの壁際のソファ席でちゃっかりティファの膝を拝借して横になっていた。
「明日も消毒してもらいに行くんでしょ?」
「ああ……気が重い」
歯科医院でのさんざんな出来事をクラウドから聞いていたティファは、苦笑しながらクラウドの前髪を梳いた。
「あの歯医者さん評判良いんだけどな。いつも混雑してるから衛生士さんたちも手馴れてるはずなんだけど……」
「医者はともかく、助手は初心者みたいな手つきだったぞ。具合が悪かったにしても酷すぎる」
「うーん、次は大丈夫よきっと。今日は舞い上がっちゃっただけだと思うし」
「舞い……?」
「ううん、なんでもない」
「……?とにかく、明日行ったらあそこにはもう二度と行かない」
 
それは残念がるわね、衛生士さんたち。
 
とは口に出さないティファだった。



 
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