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少し、意味がちがうんだ。

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えーと

まさかのニアカイ二次創作文。
クラティ以外のカップル話を書いたのは初めてです。サイトのコンテンツ増やすほど書けないと思うので日記にUPします。
いやーその、ニーア→カイネの描写がエンディング以外のゲーム中どこにもないけど、きっかけは何なんだ、いつなんだ、なにがあった、という妄想が止まらなくて。

需要はほとんど無いと思われますが、読んでやってもいいよ、という方は続きからぜひ。
ざかざかと短時間で書いたのであんまり推敲してません。。。

Deep Purple

パチっと爆ぜた小枝が火の粉を舞い上げた。
――なんだか不思議な気分だな。
魚を焼く為におこした焚き火を挟んで向かいに座っている人を見つめながらニーアはそう思った。
ノコギリのようなサメの歯を模した愛剣をさっきから熱心に磨いているカイネの姿は、ニーアが贈った髪飾りを除けば5年前と全く変わったところがない。
なにも不思議なことではない。石化状態だったのだから歳を取らなくて当たり前なのだ。
だけどニーアの時間だけは確実に5年分進み、標準より低めだった背丈はぐんぐん伸び、華奢だった身体は筋肉がついて逞しく、高かった声も低くなり、シロに言わせると目つきも悪くなって――まあ己の成長はともかく。
この5年、図書館でいつも見てきたカイネの姿はずっと石だったわけで、こうして動いている彼女を見るのは本当に久しぶりで、それはもちろん嬉しくてたまらないし、自分がカイネの歳も身長も追い越してしまったことはその過程で理解してきたはずだったのだが、いざこうして現実に向かい合うとどうも違和感が拭えなかったりするわけで――
「何をじろじろ見てる」
カイネが手元の剣から視線だけを上げて訝しげにニーアを見た。
「あ、いや…カイネ、ちっとも変わってないな、と思って」
やや口ごもりながらニーアが答えると、カイネは口の端をわずかに上げて笑った。
「お前はずいぶん変わったな」
「……そう、かな」
「ああ、まるで別人だ」
外見のことか、内面のことか、それとも両方か、と考えてニーアはふと不安を覚えた。
カイネが石化から目覚めてまだ日が浅い。彼女の目に今の自分はどう映っているのだろう。
あれから5年。心の中にとげとげしい茨のようなものが生い茂り、ちくちくと胸を刺すその痛みに始終顔を歪めながらマモノを狩り続ける、そんな日々だった。
唯一の支えだったヨナを魔王に奪われ、その手掛かりを探してマモノを殺し尽くすことに執念を燃やし続けてきた歳月は確かに自分を変えた。
内面的にはあまりいい変化ではない。大きすぎる憎しみは多かれ少なかれ人を狂わせる。
子供の頃からニーアを知る村の人々が時々掛けてくれる言葉にも、憎しみに囚われ本来の明るさを失っていく彼への心配や気遣いが含まれていた。
大量のマモノをあっという間に殲滅してしまう彼の鬼気迫る強さを目の当たりにして「マモノより恐ろしい」と噂する者もいた。
だが他者にどんな目で見られようとニーアは一向に構わなかった。
全てはヨナを取り戻すため。今度こそカイネを守るため。魔王の圧倒的な力の前に屈したあの日の悪夢を再び繰り返さないために必要なのは、強靭な精神と力だった。
……カイネならそんな自分を理解してくれる。
そう信じる一方で、だが今、そのカイネが言った「まるで別人」という言葉にニーアは動揺していた。もしかしたらカイネは、自分がまだ少年だったからこそ仲間になってくれたのかもしれない。「別人」になったお前にはもうついていけない、もしそんなふうに言われたら――。
いや、仲間を守るために己の身を犠牲にしたカイネがそんな事を言うわけない。

いつしか深刻な表情で見つめてくるニーアに気付き、カイネは手入れを終えた剣を荒々しく脇に置くと眉をひそめた。
「だから何でそんなにじろじろ見る。言いたいことがあるならはっきり言え!○※▲ついてんだろ!」
カイネは変わってない。ああ、本当に。だから遠慮はいらない。ニーアは思い切って口を開いた。
「……俺、そんなに変わったかな。カイネから見て、具体的にどんなところが別人?」
「あ?ああ……そうだな、前は私より15センチはチビだった」
「…………は?」
ぽかんと口を開けたニーアに、カイネは含み笑いを漏らす。
「なのに一晩寝たら私よりでかくなって見下ろされてた。最高にムカつくな」
「一晩って……5年だよ、カイネ」
「寝てりゃ5年も一晩も一緒なんだよ」
「…………」
ひどく主観的だ、と思ったが、そこは突っ込まないことにした。
その時、明るく澄んだ声があたりに響き渡った。
「ニーアさーん!見てください!こーんなに沢山釣れましたよ!」
近くの川辺で覚えたばかりの釣りに夢中になっていたエミールと、アドバイス役としてそれに付き添っていたシロが、二人仲良くふわふわとこちらに向かってくる。余程大漁なのか、魚入りのバケツを下げたエミールの方はふわふわというよりもふらふらしている。
ニーアは立ち上がって、エミールの手から受け取ったバケツを軽々と持ち上げた。
「へえ、すごいじゃないか。エミールは釣りの才能があるよ」
「えへへ、そうですか?」
「うむ、我の助言などほぼ無用であった。小僧が釣りを始めた頃とは雲泥の差だな」
「そんな昔のこと持ち出すなよ、シロ。だいたいあの時はシロがうるさいせいで魚に逃げられっぱなしだったんじゃないか」
「……そんな昔のことを持ち出すでない」
あはは、とエミールの快活な笑い声を、カイネが遮った。
「おい、さっさと焼くぞ。腹が減って死にそうだ」
「はーい。あ、火加減も丁度良い頃ですね。いっぱい釣れたから沢山食べてくださいね、カイネさん」
焚き火の加減を覗き込んだエミールに、今度はニーアが慌てたように声をかける。
「待て、村の子供達に頼まれてた分もあるんだから全部は駄目だ」
「ガキ共の分は後でお前が釣ればいいだろう。私に腹いっぱい食わせろ」
「まったく、下着女の食欲には毎度毎度呆れ返る。石化を解くのではなかったぞ」
「石化を解いたのも魚を釣ったのもエミールだ。貴様は見てただけだろうが!クソ本!」
「シロさんもカイネさんも、ほら、どんどん焼いて食べましょう。おなかが空くとイライラしますからね」
「ふん、こやつは腹が減らぬとも始終イライラしておろう」
「もう!シロさん!」
「このクソ拭き紙……粉々に切り刻んで川底に沈めてやる!」
「カイネさんも!」 
「相変らず過激だなあ、カイネは」 と小さく呟きながら、ニーアは頬を緩めた。
シロもカイネも、この不毛な罵り合いをどこか楽しんでいるように見えた。仲裁役のエミールも、そしてもちろん、自分もだ。 

結局エミールが釣り上げた魚の7割を胃袋に収めたカイネは、とりあえず満足したようだった。
強い陽射しのおかげでマモノが姿を現すこともなく、のどかな景色の広がる北平原をニーアの村に向かってぞろぞろと歩く。
「ニーア」
いつもと違う、少々改まった声色でカイネに名を呼ばれて、ニーアは後ろを振り返った。
「……なに?カイネ」
立ち止まった二人から少しだけ先に進んだところでシロとエミールも振り返ったが、何かを察したのか再び先に進んでいった。
それを見送ってカイネに向き直ると、彼女の右手がニーアの頬にぴたりと触れた。
「もうひとつ、変わったところがお前にはある」
そう言って、カイネはニーアの瞳を覗き込む。何もかも見透かされそうな、深い紫色のカイネの瞳。
ニーアは動けない。動く必要もないが。ただ、何を言われるのかと身構えた。
「瞳に影が差した」
「………………」
「昔はなかった影だ」
「……だろうな」
カイネの瞳から目を逸らし、ニーアは俯いた。このままヨナを取り戻すことが出来なければ、その影は次第に深くなり、やがては狂気に彩られるのではないだろうか。先刻寄ってきたロボット山の、あの哀れな弟のように。
カイネの右手がニーアの頬を撫で下ろすようにして離れた。
名残惜しいような、逆に安堵したような複雑な気持ちでニーアは顔を上げる。
優しい、そして力強い眼差しが真っ直ぐにニーアを見上げていた。
「ヨナを取り戻そう。必ず」
ニーアはまた動けなくなる。唇だけが微かに震えた。
何度も何度も。胸の中で唱え続けてきた誓いの言葉を、別の人間の口から初めて聞いた。
 「……ああ、必ず!」
ニーアは力強く頷いた。

瞳に差した影。
それを見止めて気遣ってくれる村の人達の優しさに、ニーアは純粋な感謝の念を抱いていた。
でもカイネはそれだけじゃない。
その影を、一緒に取り払おうと言ってくれた。
そのおかげで、やっと気付いた。
シロも、エミールも、そんな思いで一緒にいてくれるのだと。
「ありがとう、カイネ。俺、カイネがいてくれて、良かった」
「ふん、そーいうバカがつくぐらい素直なところは相変らずだな」 

ずっとカイネに会いたかった。
自分で思うよりずっと、会いたいと願っていた。
動いて、喋って、怒って、そして時折やさしい目をする、カイネに。
気付かされたもう一つの想いを、ニーアは心の中の手のひらでしっかりと握り締めた。

 

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